薬物療法とメンタルケアの二本柱

アトピー性皮膚炎は湿疹の一種です。

湿疹が出やすい肌の特徴としては、乾燥しがちな肌で、角層のバリア機能が低いことがあげられます。

そのため、強い紫外線や汗の刺激などでも湿疹を引き起こしたりします。

出疹を起こした肌は、角質層のバリアが壊れて、表皮細胞がむき出しの状態です。

悪化したときにじゅくじゅくとしているのは、表皮から組織液が出てきて、かさぶたをつくり、急場のバリアを張ろうとしているのです。

この状態では、すべからく何らかの刺激が入ると悪化してしまいます。

皮膚の乾燥を防ぐはたらきには、肌表面にある皮脂と汗の混じった天然の保湿成分、それから角質細胞内にある天然保湿因子(NMF)、角質細胞間にあるセ
ラミドの3つがあります。

このうちアトピー性皮膚炎の乾燥肌でとくに問題となるのは、角質細胞内のNMF、角質細胞間のセラミドによる保湿機能です。

アトピー患者さんは肌の働きが不足している

最近の研究では、アトピー性皮膚炎の思考さんは、NMFを角質層に供給する役目をはたすフィラグリンというたんぱく質の一種が十分つくられていない可能性が示されてきています。

フィラグリンが減少してしまうと、角質層のアミノ酸が不足し、角層水分量が低下して、肌のカサつきを引き起こす可能性があります。

また、角質細胞聞の保湿機能をはたすセラミドについても、アトピー性皮周炎の乾燥肌の部位では、角質層のセラミドが減少していることがわかっています。

その結果、角質層の水分量が減少し、バリア機能が低下すると考えられます。

さらに、アトピー性皮膚炎になる人は、こうした乾燥肌の傾向に加え、さまざまなアレルギー反応が出やすいという遺伝的な素因もあります。

その素因というのは、アレルギー源となるホコリ、ダニ、花粉などの異物を迎え撃つ免疫物質、IgE抗体の産生量が多いという遺伝的体質です。

皮膚や粘膜には肥満細胞という、アレルギー反応を引き起こすヒスタミンなどをたくさん含んだ細胞があります。

IgEはこの肥満細胞の表面に結合していて、ダニや花粉などのアレルゲンがIgEに結合すると、肥満細胞の反応が起きて、ヒスタミンをはじめ、アレルギー反応を起こすさまざまな化学物質を放出します。

これがかゆみの原因になるのです。

もともとIgEは寄生虫などのあきらかな敵に対する免疫をつかさどり、肥満細胞の反応は必要なものですが、アトピーなどのアレルギーの問題は、身近にあるほこり、ダニ、花粉などを敵と勘違いしてしまうこと。

IgEをたくさん産生して、化学物質を過剰に放出しつづけることになります。

アトピー性皮膚炎は、本来、乳幼児期に多く発症するものです。

そのほとんどは小学校を卒業するころまでにほぼ治っていきますが、1~2割の方はそれ以降もつづいたり、あるいは成人してからふたたびぶりかえすことがあります。

このようなケースは比較的重症であることが多いといわれています。

わたしは大人までもちこしてしまった、あるいは大人になってからまた症状が出はじめたアトピー性皮膚炎の場合は、重症になりがちなことも考慮して、薬物療法とメンタルケアの二本柱で治療しています。

最新の研究では、とくに重症に至るアトピー患者さんはその多くが心理的要因としてストレスを抱えていることがわかっています。

アトピー性皮膚炎の忠者さんの場合、ちょっとしたストレス状態で肌をさわる、こする、掻くといった、掻破行動が起こりやすいのです。

アトピー性皮膚炎はかゆみの強い皮府疾患なので、かゆくて掻いているうちに、掻く行動が独り歩きしてしまいます。

特別かゆくなくてもなんとなく掻いてしまう、それによって気が紛れるとかほっとするという効果があって、自分でも気づかないうちに掻破行動がくり返されていき、クセのような習慣になってしまうのです。

このような掻破行動はアトピー性皮膚炎の悪化を招き、じつは、治りにくくしている大きな要因です。

ストレスで引き起こされる掻破行動は、まずそれに「気づく」ことが大切です。

そしてどんなときに掻破行動が起きるのか自分のパターンを知ることで、うんと減らすことができます。

そのときに用いるのが「スクラッチ日記」です。

スクラッチ日記とは?

スクラッチ日記では掻いた時刻、状況やきっかけ、からだのどこを掻いたか、などを記録してもらいます。

それを後日、患者さんとともに確認し、その方のパターンを見つけます。

たとえば、通勤の電車の中、テレビを見ながら、入浴前や後、イライラしたとき、焦ったときなどが多くみられます。

自分でもなんとなくわかっていたことかもしれませんが、紙に記録することでいったんアウトプットして目で確認でき、自分で納得(インプット)します。

その作業を通じて、自分の中でモヤモヤとしていた悪循環の正体がわかってきて、出口が見えてくることがあります。

それがわかれば通勤電車では好きな音楽を聴いて気を紛らわすとか、テレビは意識的に見る位置を変えるなど、ちょっとした工夫で掻破行動を減らすことができます。

イライラしたり、焦ったときはまず深呼吸してみるのも有効です。

日記をつけるのが難しい場合は、とりあえず、手が顔にいきそうになったら手を組むなどワンクッションを置く動作で、掻破行動をいったん止めることもできます。

こうして少しずつ掻破行動が減るにつれて、皮膚の症状はよくなってくるので、自分の取り組みに自信がもてるようになり、積極的に治療しようという前向きな気持ちになっていきます。

このスクラッチ日記と並行しておこなう薬物療法は、アトピー性皮膚炎の重要な治療となります。

並行して薬物治療を行う事で効果的にアトピーを治す

この薬物療法が不十分だと、治療効果はまず上がりません。

もっとも用いるのは、ステロイド外用薬です。

ステロイドはアトピー性皮膚炎の炎症をしずめ、その結果、かゆみを軽減させます。

それによって皮膚バリアは急速に回復し、外界からの刺激やアレルゲンに対する過敏性が治まります。

ステロイドの塗り薬を使っているけれど、なかなかよくならない、すぐにぶり返すという方の多くは、塗り方が少ないか、お薬の効力が不十分か、知らずしらずの掻破行動で悪化させているためにお薬の効果が目減りしていることが考えられます。

お薬の量は、大まかにいって、軟膏ならば塗ったところがピカピカして、触るとベタベタするくらい。

この「ピカベタ」がちょうどよい量です。

アトピー性皮膚炎になる方はもともとがアレルギー反応を起こしやすい、皮膚が乾燥してバリア機能が低下しやすい体質です。

そのこと自体は変わりませんが、湿疹がよくなって肌のバリアが回復すれば、汗などの刺激やアレルゲンに対する反応が起きにくくなるのです。

10年ほど前には、ステロイドは悪物扱いされて「塗りたくない」「怖い」という患者さんも少なくありませんでした。

さいわい最近はそういう忠者さんは滅り、私のところではステロイド外用薬を上手に使いこなす人が増えてきました。

ステロイド外用薬そのものが悪いのではなく「どう使うか」が重要なポイントなのです

ステロイド外用薬とは作用の仕方が異なる免疫抑制薬の塗り薬、タクロリムス軟膏(プロトピック)を組み合わせて用いることも多くなりました。

また、このお薬はかゆみが起きる免疫反応を抑える薬です。

お薬ごとの特徴を生かして、その方にとってつづけやすい外用療法を組み立てることが大切です。

大人のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイドを中心とした外用療法とメンタルケアの二人三脚があって、はじめて治療に向かっていくものとわたしは考えています。

さらに、患者さんと医師との二人三脚も重要です。

まずは、患者さんには医師の処方したお薬の量と回数を指示のとおりに使っていただくこと。

その結果がどうだったかを、次の受診のときに報告してほしいのです。

それがステロイド外用薬の効果を十分発揮させて、しかも副作用を減らすために大事なステップです。

そのうえで、実際の外用量は十分か、期待していた効果が上がっているかを判断します。

わたしたちはできるだけ詳細な判断材料が欲しいのです。

症状の経過を患者さんといっしょに体験して、情報を共有する。

そのうえで、「じゃあ次は薬を減らしてみましょう」「もう1週間つづけてみましょう」と次のステップを提案することができます。

この忠者さんと医師のコミュニケーションがうまくいかないと、薬物療法やメンタルケアはなかなかうまく行きません。

アトピー性皮膚炎の素因は変えることはできませんが、環境因子やストレスは調整していくことができます。

環境やストレス状況によって、また症状が出てくることもあるかもしれません。

しかし、対処できることを知っていれば、軽い症状のうちに改善の方向に自分で舵取りすることができるようになるのです。